ベジータが負って帰る傷の程度は、回を重ねるごとにだんだん重くなって行き、直接戦いの場を目にしない彼女にも、その状況の深刻さは伝わってきた。
二ヵ月後、彼は今度こそ半死の重傷を負った。
仙豆はとっくに、一粒も残っていなかった。この戦いで天津飯は命を落とし、クリリンも重傷を負った。ベジータをカプセル・コーポに運んだのは、比較的軽傷の悟飯だった。
大丈夫、この男ならば自力で回復する。
医療品をはじめとする物資は、工場が次々と破壊されて生産量が激減し、そのうえ運輸ルートのほとんどが途絶えたために不足を極めており、満足な治療を施すことが出来なかった。
彼女は祈った。それが今出来ることのすべてだった。
三日後、男は目を覚ました。
助かっても、目覚めないかもしれません。そう言っていた医師は、その四日後には退院を許可した。うちの厨房も、これ以上はもちそうにありませんしね。患者の健啖ぶりに、調理師や調理ロボットがオーバーヒートしてしまったこの病院の院長は、そう言って苦笑いした。
家に戻ると、彼女は彼が部屋に戻るのに肩を貸した。まだその程度にはダメージが残っていた。それでも振り払って自力で歩こうとするに違いないと思っていた彼が、黙って体重を預けて来たことに、彼女は驚いた。随分素直じゃないの。だがそれを口に出せばまた臍を曲げてしまうだろう。彼女もまた黙って彼を支え、歩いた。
男を、新しく築いた地下の居住スペースにある彼の部屋まで送った後、リビングに上がり、テレビをつける。人造人間が現れてからは、ニュースを拾うためにそれはつけっぱなしにされていることが多かった。
ここのところ、それらが出現したという情報が流れない―関連情報は毎日のように流されているのだが。居場所が分からないことは、いっそうそれらの不気味さを煽った。
その後二週間ほどでベジータは全快した。
体中に傷跡は残ったが、ともかく生還したのだ。彼女は、彼が目を覚ますまでの三日間の不安と焦燥を思い、目頭が熱くなった。
三日の間、彼女は彼の枕辺につききりで祈り続けた。神のいないこの世界で一体誰に祈ればいいのだかわからなかったが、他に出来ることが無かったのである。彼女は昏睡から覚めない彼の手を握り、呼びかけ、励まし続けた。必死だった。何千回目かに呼びかけたとき、彼は身じろぎし、うっすらと目を開いた。
「ベジータ?」
覗きこんだ彼女の方を見て、頷くように瞬きをした。彼女は握り締める手に我知らず力を込めた。もう一度彼の名を呼ぶと、握り返してくる力が彼女の手に伝わった。彼は再び眠りに落ち、その四時間ほど後に、はっきりと目覚めた。ここはどこだと訊ねる彼に、病院よ、あんた三日も目を覚まさなかったのよと答えると。
「腹が減った」
それが第一声じゃなくてよかったと彼女は本気でそう思った。食事まで間があったので、持っていたチョコレートを差し出した。だが、男は自分の胸の上に置かれたそれに目を落とすだけで、いつまでも手を出そうとしなかった。
「どうしたの」
ああ、あんたこれ好きじゃなかったっけ。そう言ってそれを仕舞おうとする彼女の手を、彼の手が引き止めた。
「なに、やっぱり食べるの?」
だが、やはり手を出そうとしない。
まあ、甘えてるんだわ、こいつ。
彼女は、彼が初めて見せた一面に驚き、可愛いところがあるじゃないのと忍び笑いつつ包装を解き、中身を彼の口へ運んでやった。彼は全部そうして平らげてから、こんなもの腹の足しにならん、と零した。
彼女も、この現状をただ見ていた訳ではなかった。
まず、地上の人々を地下に潜らせようと考え、父とともに国王に提言し、地下基地の建設計画を進めさせた。
大規模なものを一箇所に作るよりも、小規模なものを多く、広く点在させた方がよい。全滅を避けるための危機管理上は。考えたくないことだったが、考えないで済ませられることではなかった。だがそうすると情報や物資の流通ルートを細やかに多く確保しなければならないし、気を感じ取る能力を持つそれらから身を守るため、そういったものを地上に漏らさないようにする装置も開発しなければならない。あちこちに穴を掘って出来上がりという簡単な話ではなかった。
彼女は急(せ)いていた。こうしている間にも、どんどん人口は減り続ける。ベジータや悟飯のパワーアップを待っていては、間に合わないかもしれない。それほどに人造人間は圧倒的で、かつスピーディーだった。ただ、それらはとても気紛れで、何日も続けて殺戮を行うこともあれば、長い間なりを潜めていることもあった。その気紛れこそが、人類があっというまの全滅を免れた一番の理由であるとは、何とも皮肉な話だった。
不気味な沈黙が続いたお陰で、何箇所かの基地の建設が順調に進んでいた十月のある夜、ついにそのニュースが流れた。
西の都の北東方向にある半島の村落に、人造人間が出現したのだ。ただどういうわけか、それらはすぐにそこで殺戮を開始したわけではなく、民家の一つを占拠して動く様子を見せず、その村落や周辺に住む人々がこの間に少しでも遠くに逃れようとしてパニックが起きている、と報じられた。
また気紛れを起こしたのだろう。だが、時間の問題だった。彼女は拳を握り締めた。